残酷なまでに長い夜を持て余した大人たちの遊び場所。
 綺麗な蝶々の羽根をもぐ。

                                 an entertainment district

 昼も夜も無いこの世界が、少女と自分の生きる場所。

 

 「ねえ、あなたもそうなの…?」

 このまま溶かしてしまいたい。

 それならば、それが幸せ。それが結論。

 

 

 試すように首筋を撫でると、細い指が咎めるように頬を掠めた。
 咎める?

 いや違う。これは、もっと別のもの。

 ―ネエ、アナタモソウナノ?―

 

 少女が戸惑ったように聞いて来た言葉。
 答える代わりに唇を塞ぎ、きつく吸う。それが答え。
 抵抗するように逸らされた首筋が、嫌でも目に入る。赤い痣の沢山ついた細い首。

 これが生きる道。

 もう一度、指先で痣を辿る。考えなくても分かる弱点。

 

 「やめて…」
 すすり泣くかのように、喉がひくりと動いた。
 「黙れ」
 か細い哀願をざっくりと切り捨てる。零れた涙は傷口から流れる血のようだと思えた。
 

 欲しいのはリアル。

 これが現実。

 愛なんて優しい儚いものは、綺麗過ぎて焼かれそうだから要らない。
 掴んだら中に抱える闇が飲みこんでしまいそうで怖いから、要らない。

 

 

         

                                 「ねえ、あなたもそうなの?」

 

 

 

 「判ってるはずだ。」

 「判ってないならお前は何も学んでいないと言う事だ。」

 「他のヤツらの言葉を思い出してみろ。」

 

 細い身体。このまま抱き殺すという結論が出せれば、どれほど幸せだろう。
 絡んだ手は、自分のものより僅かに冷たい。

 

 「あなたは、違うと思ってた…」

 涙交じりに、呟く声は震えている。

 

 「あなたを信じてた…ううん。信じてる。」
 それでも少女は微笑んだ。無理な笑み。覆い隠して騙そうとしているのは、彼女の心。

 自分が知る限りの狂った世界で、唯一綺麗なもの。

 

 「だから、知っておいて。」
 両腕を首の周りにまわして、抱きしめる。
 「あなたを愛してる――」

 「なら、拒むな。」

 

 

 

 言い捨てると、諦めたように目を閉じた。
 濡れた瞼に唇を落とす。

 

 

 

 コレしか知らないんだ。俺は。

 コレが「愛」だと信じてる。

 だから、何故そんなカオをするのかが判らない。

 願いなんて言葉にする意味が判らない。

 

 

 

 

 

 

 力尽きた少女を抱き上げて、呟いた。

 

「それとも、愛していると言えばお前はこれを受け入れたか?」

 

 

 この世界で手垢に塗れた言葉を、望んでいたか。

 

 

 

 

 

                   「本当に綺麗な子ね。…私は綺麗なものを愛してるわ…好きよ。」
                    蘇るのは、自分を買った女の声。

 

 

 

 

「俺には、もう…この言葉が正しいものとは思えないんだ。」

 

 

「愛を示す言葉が、愛や使い古された陳腐な言葉のほかに、あるのか?」

 ぐったりとする身体に問いかける。目に付いたのはさらに色濃くなった欲望の残滓だけ。

 

 

 

 愛を愛で語れなくなってしまったなら、このまま消えていくことが一番正しい方法のようにすら、思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが人の欲望の結果だとしたら、人間の形を捨ててしまおうか。」
「声と言葉と身体と一緒に」

 

 少女は答えない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき。
 もがれた蝶の羽根は、愛を語る言葉。
 大人達が戯れに呟く愛が、二人を引き離す。

 行為よりも言葉に愛を探す。

 言葉よりも行為に愛を見出す。

 それでも、愛について語る事は怖くて出来ずにいる二人を。

 

「愛してる」
「一緒に居て」
「好き」
「あなただけ」
 他にも様様に伝えられた、愛を語る言葉。
 それ以外の言葉があれば、喜んで使うのに。

 

 最初に汚した人は、きっと綺麗なものを汚してく快感を味わったんだろう。
 笑いながら、何をしているか判らない子供を、ぐちゃぐちゃにして。
 辱めて貶めて。
 汚されたほうは、年をとってそれが何だったのか知るにつれて傷ついていく。
 受け入れることも割り切れることも出来ずに、ただ怯えて。生きるために泥を塗り重ねてく。

 もう片方は、偽りの愛を口にしていくうちに、言葉を信じられなくなって。
 だから、行動するしかなかった。無理に繋ぐしかなかった。

 

 設定としては完全オリジナル。
 アニタ様親衛隊で読んだフォルローがあまりにも素晴らしかったので、ノリで書いたもの。
 萌えとかもあったけど、あの文章は好きです。(げふんげふん)
 なんて言うの?あのイメージ的にはまだ「キャベツ畑」「コウノトリ」を信じているような子が犯ってるというのが、
 萌えですね。はい、人間失格的な快感でございます。あー。(笑)現実じゃ許せないけど、二次元なら萌える。
 堕落していくサマが萌える。ハリガネムシ万歳。

 カップリ的にはフォルローで、シリーズ的には
「ROCKMAN FINAL」…いずれUPするまとめシリーズ。
 設定的には、フォルテとロールは歓楽街出身となってます。ホストとお水さん。なんかこの一言で、ロックマンじゃねぇなぁ。
 一応、主人公っていつも正義の側にいるじゃないですか。正義、というか正常、というか。…ある程度しっかりした環境で。
 たまにはね、という事で、みんなとんでもないサイドから物語を始めてみました。ロックは悪者側に居ます。(をい)
 でももしかしたら、裏オンリーの連載となるかもしれませんね。そういう描写は無いんだけど、人間失格な私の萌えが注ぎ込まれているので。
 …情操教育モエッテドーヨ?(苦笑)

 

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