汚いほど綺麗な星を見に行こう。
きっと降り注ぐように見えるはずだから。

Holy

 クリスマスも近くなり、街では華やかなネオンがまるで人口の星の
ようにキラキラと輝いている。
幸せそうに笑みを浮かべ、白い息を吐きながら通り過ぎて行く
カップルや親子連れはもうじき訪れる降誕際に向けての
買い物に余念が無く、イベント前の慌しくも優しい雰囲気に
包まれた、そんな時期。ロックもやはり買い物の客に混じって
荷物を抱えながら歩いていた。
「サンタさんに、何をお願いする?」
「うーんとね、ワンちゃん!!」
 耳に入ってくる前の母娘の会話を微笑ましい思いで聞きながら、
彼はその母親の表情から、クリスマスの朝には少女の枕もとに
子犬がいるであろうと見当をつけた。
(良い飼い主になってね。)
心の中で呟いて、にっこりと足元を歩くラッシュに視線を落とすと、
恐らく同じ事を考えていたのだろう・・・賢そうな目で、ラッシュは
彼を見上げていた。角を曲がった二人の姿が消えると、ロックは
小さな声でラッシュに囁きかける。
「今年も、無事に終わりそうだね。」
ロックにとっては、このクリスマスを無事に迎えられるということが
何よりのプレゼントだ。今年も色々な事件があったが、幸い
クリスマスはライト博士や妹のロールと迎えられそうだった。
去年はデパートの爆破予告が有り、その為に引っ張り
出されてしまった為、一緒にお祝いすることが出来ず、後で
むくれたロールをこっそり連れ出して、やっと許して貰ったと
いう始末だったのだ。
彼女を連れ出した先…それは、ちょっと遠くの山だった。
高原特有の澄んだ空気は冬になって一層冴え冴えと透過さ
れたように、星の姿を忠実に再現して、空はまるで黒い紙の
上にラメを零してしまったかと思ってしまう位、様々な光で
溢れていた。街中では地上の星…ネオンに負けてしまうが、
一歩暗いところへ出れば、空に輝く星の方が数も色も、様々な
バリエーションがあることに気付かされる。
数を数えたら絶対に気持が悪くなるぐらいの、満点の星空…。
ふと、また見てみたいような気がして、ロックは帰ったらロールに
相談してみようと心の中で呟いた。

「ねえ、去年と同じだけど、星空を見に行かない?」
食事の後ロックが切り出すと、ロールは嬉しそうに微笑して
頷いた。後片付け終わるまで待っていて、と言いながら。
「博士。出かけて来ても良いですか?」
「おお良いとも・・・出掛けておいで。」
寒いので家に居る、と言ったライトに見送られ、二人はボード状の
移動装置に乗り込む。ちらっと見た限りでは分厚いスケートボード
のようだが、普通のボードとは違い、後ろの部分にジェットが付いて
いる。ロックに続くようにしてロールはボードに飛び乗り、
「行ってきます。」
とライトに手を振った。
「博士も、寒いでしょうから中に戻ってて下さい。」
「うん、判っておるよ。」
「一時間ちょっと位で帰ってきます。」
そう言って彼はエンジンを作動させた。轟音と共に面が僅かに
浮き上がり…次の瞬間勢い良く出発している。
冷たい空気は加速したこともあり、身を切るような冷たい風と
なっていきなり牙を剥いて、思わず二人は亀のように首を竦めなが
ら小さく悲鳴を上げる。
ロボットだから寒くない…なんていうのは大間違いだ。確かに寒く
て死ぬ確立は遥かに低いものの、寒いものは寒い。
思わずロックの後ろに隠れたロールは…こう言えば可愛いが
要するに彼を風除けにしただけだ…ぎゅっと目を瞑って、
コートの背中にしがみ付く。この速度なら仰け反ってしまいそうな
程に強い風が吹いている筈だが、ロックは全くふらついた様子も
無くしゃんと立っている。背中や全体のラインは華奢だが、見掛け
とは当てにならないものだ。
「しっかり掴まっててね。」
風圧にも動じた様子も無く、ロックは言った。うん、と答えたつもり
だったが風に飛ばされて上手く聞こえなかったらしく、彼は
もう一度問いただす。答えは、声ではなく背中に当たった額の
感触で判った。
「…寒い?」
こくり。
「もう少しで着くよ。」
こくり。

 

会話らしい会話が成り立たないが、それは気まずいもの
では無かった。奇妙な二択会話は20分程、目的地に着くまで続く。
山に着き、ボードから降りたロールの第一声は、
「喋れなかった〜」だった。
「どうしてロック、喋れるのかしら?」て
「きっと僕の方が前に居たからだよ。…ほら見て。凄い星。」
見上げた空には、確かに零れそうなほどの星があった。
空を埋め尽くす、もしかしたら黒い部分よりも輝いている部分の
方が多いのかも知れない星の群れが彼らを見下ろしている。
「……」
暫くの間、二人は言葉を失って空を見上げていた。

優しい光を振りまきながら、星は二人を見下ろす。
この空の向こうには、他の生き物やロボット達が住んでいるの
だろう…
実際にはそれほど前ではないはずだが、随分と昔のようにも
思える、あの正義感の強いデューオとの出会い。
彼もまた、この空のどこかで戦っているのだろうか、と
ロックは心の中で呟き、そして星の彼方へ思いを馳せた。

 

「…さ、そろそろ戻ろう。博士も心配してるだろうし。」
どの位時間が経ったのかは判らないが、不意に
ロックがきっぱりとした口調で言い放った。すっかり時間を
失念していた自分を咎めるような口調に、ロールは微苦笑を
浮かべて頷く。
「さ、行こう。」
自然な動作で彼は手を差し伸べ、その手は握られる。手を繋ぎ、
並んで歩きながら、ロールは言った。
「来年も、また、連れて来て?」
「…うん。」
蒼い瞳を細めてロックは笑い、きゅっと掌の中の手を握り締めた。
「来年も、一緒に見に来よう。」

「クリスマスに約束したんだから、破ったら罰が当たるね。」
彼は苦笑して、そう付け足した。

 

 

あとがき。
本当は「聖なる約束」というい題だったんだけど余りにも陳腐な題だったので
「聖」だけに。(笑)ますます意味不明。そのネタは最後にちょっとだけ入ってます
が、全く判らないと思う。
クリスマスだからとりあえず!!と大急ぎで書いたので、ダメダメです。そのうち
絶対に書き直してやる…。
ロックとロールってやっぱり可愛くていいよね。とちょっと思いました。
フォルテのほうがドリームっぷりが激しいですが。(笑)

ここの素材、軽くて可愛くて良いでせう。