2、リボン

ブログ小説とリンクさせたいなと思って描きだしたイラストですが。
「大怪我してねぇよ!」
「庇う腕間違ってるよ!」
「炎ねぇよ!(左側の壁が赤いのは照り返しなんだよ!)」
等など色々セルフ突っ込みが入るような代物になりました。ロックバスターって
左腕で撃つから、怪我したのも左じゃなきゃいけないのに…。おまわりさんここにアホがいるぜ!
ロックの表情は薄幸くさくて大好きなんですが、あとは…ね。うん。
しょうがないから小説だけでもまともにしようと書き直してみました。…改めてみると、凄く読み辛い文章
だったなぁ…。一応、黒いリボンを部屋に置かないと言うのはロールなりの願掛けだったんですよ。
ちなみにこのリボンって話、Xシリーズのあるキャラに凄く凄く繋がっていく話になる予定です。(ややこしい)
裏読んでる人は「あぁ盗まれたのは△△の××プログラムなんだな。ということは○○に繋がるな」
っていうのが、なんとなーく判るかな?

リボンおまけ小説

 

荒らされた部屋は、まるで宝石箱を引っくり返したかのように様々な色彩に溢れていた。
 床に散乱した色とりどりの細い布を前に、呆然と立ち尽くす。うろたえたように彷徨う視界に漆黒が
飛び込んで来てくれた様にも一瞬思えたが、それは良く見れば艶やかなベロアの濃紺だった。
(違う。)
探しているのは、気が重くなるほどの、死を連想させるほどの漆黒。
 透けるようなサテンの煌きに、精緻に編みこまれたレースの黒…だが、彼女の求める黒は見つからない。
どうして、と内心で呟いたとき、ふと耳鳴りのように少女の声が蘇った。


『黒いリボンは、要らないの。』

『だって』

『葬送のときに、つけるものでしょう?』


 そう呟いた少女の部屋には、真っ黒なリボンは存在しなかった。
兄に常に付きまとう死の影を避けるかのように、少女は葬儀に使えるような色のリボンを部屋に置くことを頑なに拒んでいたのだ。

 だから彼女は、皮肉を込めて黒いリボンをメモリーチップの隠し場所に選んだ。
無用心な、とも言える処置ではあったが、そもそもこの場所に力ずくで侵入できるような人物ならばいくら厳重なプロテクトをかけても
結局は無駄だろうし、まさか女物のリボンの中にそんな重大な機密があるとは誰も考えまいと踏んでの選択だった。
 だが、相手は…プロテクトがかけられた囮のセキリュリティシステムには目もくれず、洋服箪笥の中の黒いリボンだけを的確に抜きとって去っていった。
それがそこにあるという情報を、何時相手が入手したかは判らない。
判るのは、ただ…それが、奪われたということだけ。
「…追う?」
「えぇ…。…必ず、見つけ出して。」
 どこか愉しげな響きを含んだ声で、彼女の背後に立っていた青年が問いかける。それを咎める気力は起きず、プログラムの奪還だけを命じて
唇を噛みしめた。

これを盗み出した犯人と、その目的はわかっている。
だが一体何処から、情報が漏れ出したか…誰かにそれを話した覚えは無いし、どう考えても、普通に思い浮かぶ場所でもない。
そこまで考えた時思い浮かんだある方法に、彼女は弾かれたように部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、巨大なコンピューターが据えつけられた研究室に入るなり、ろくに考えもせずトランスミッターを引っ張り出す。
もう見たくない光景を見ることになるのかもしれない、と一瞬苦い思いが頭をよぎったが、それを理性でねじふせ、
「トランスミッション」
 祈りをささげる殉教者のような静謐さで、彼女は自らを電脳の海に沈めた。

 トランスミッターは、彼女の意識プログラムをボディから切り離し、パソコンの中に記録されている彼女の記憶プログラムの総体に干渉することを可能とする。
山のような量の記憶を前に、目を閉じて、ここ最近干渉を受けたプログラムを検索すると、予想通り、何箇所か干渉を受けた記憶があった。
それは、とある少女の記憶。会話の記録や、日常的な買い物の記録、どれもこれもが他愛も無くどうしても元に戻らない幸福に輝いているものだ。
そこには恰幅の良い穏やかな表情の老人がいた。奇妙な愛嬌を持つ、お手伝いロボットがいた。雪国の少女がいた。
似合わないほど真摯な目でこちらを見ている銀髪の青年が居た。それから…華奢な肩で全てを支えようとした、英雄の姿があった。
傷口を抉るような、ある意味拷問にも似た記憶への探索の手が止まったのは、特に酷いハッキングを確認したからだった。

 それはある秋の日の記憶…否、記憶だった。

 ぱちぱちと、炎が爆ぜる音がしていた。
 熱いと感じるのは、その時の「彼女」の経験の中に完全に入り込んでいるからだ。
 視界が強制的にブレたかと思うと、膝の上でぐったりと動かない子供の映像が飛び込んできた。幸い怪我は全て掠り傷や軽い打身程度で、
命の危険は無い筈なのだが…その子供は、さっきからずっと目覚めないでいる。なるべく早く医者に見せなければいけないのだが、運ぼうにも、この場所から一歩も動け
ない状態に彼女…ロールたちは追い込まれていた。

 相手のロボットの名前は、知らない。商店街の真ん中でいきなりロックに戦いを挑んできた彼は、勝負に応じようとしないロックに腹を立てたのか、
一人の子供を人質に取った。うかつに攻撃すれば、人質に取られている子供の命が危ないと脅されたロックは防戦を強いられ、無視できないほどの量の傷を負った。
体力が尽きる一歩手前の所で、相手は言ったのだ…「10分逃げる時間をやる。精々隠れて命を拾おうと足掻け。」と。
それは、ロックがもう殆ど動けないという事を知っていての提案だった。最後はせめて狩りらしく、そう思ったのかは判らないが、相手はずっと抱えていた人質を解放してどっかりと
瓦礫の上に座り込み、嫌味のような大声で600からカウントを始めた。
 勿論、彼がその子供を見捨てられる訳も無く、ロールがそんな彼を見捨てられる訳が無く。三人で何とかこの燃える盛る廃屋の中に逃げ込んだのだ。
いや、誰一人として走ることは出来なかったのだから、逃げ込んだというのは適切では無い…最寄の建築物に、やっとの思いで入り込んだというだけの話だ。

 あと五分経てば相手が動くという時に、ロックは、彼が注意を引き付けている間に、子供と一緒に安全なところへ退避するように彼女に告げた。
「とりあえず、仮止めだけするから…腕、貸して。」
 何も出来ないまま立ち去るのは気が重く、ロールは意味など無いと知りながらも髪を結っていたリボンを外し、特に深い腕の傷に、止血の要領で巻きつけた。


 その日のリボンは、濃紺だった。

 不安に胸騒ぎがしたその理由を、今でも明確に覚えている。


 濃紺に、オイルの赤と炎のオレンジ。光の加減か、腕に巻かれたリボンは、まるで死者を悼むかのような漆黒に見えた。
 彼女が忌避していた筈の色が、どんな偶然か彼の腕にあったのだ。
 その時感じた例えようも無い恐怖感が、彼女を動揺させた。黒いリボンは要らないの、いつか誰かに向かって呟いた言葉が蘇る。
あれは確か、黒いリボンを手にした青年を拒絶したときの言い訳。
 死を連想させるものが怖い。常に死と隣り合わせの場所に居る英雄からは、そういった不吉なものは出来るだけ遠ざけておきたかった。
ある意味願掛けや祈りにも似た潔癖さで、彼女は頑なに黒いリボンを拒み続けたのだ。


(そんな彼女が、それを身につけた日は―)
 ロールの意識に同調しすぎたせいで嫌な事を思い出してしまい、彼女…フォーチューンは眉を顰める。
それ以上の記憶の探索は無意味だと、うつむく少女の記憶から自らの意識を引き剥がし、意識を覚醒に向かわせた。