愛すべき人、というのは、要は最後の一線だ。



 それは、最果てを求めて生きる、ある恋人達の話だった。
「ライっ!」
 慌てた男性のせいで、床に散らばったチョコレート。そんな些細な事で恋人達の喧嘩は始まる。散々大騒ぎして、結局仲直りは、
涙ぐんだ女の子―ユギへの、キスひとつ。
 男の方―ライは、どうやら魅了されやすい性質らしい。男らしいと言うべきか、それとも慾に忠実、と言えばいいのだろうか。
 しょっちゅうあちこちの女性にちょっかいを出しては、叱られて大喧嘩。でも結局戻るところは一箇所…ユギのところ、なのだ。

 気に食わないものはぺしゃんこにして、その上を通り過ぎる風のように、自由に生きていると見えた恋人達。
 だが、その奥には―。
 その奥には、拭い去れない依存心が透けている。土砂降りの雨の下、身を寄せ合う傷ついた獣のような、そんな、互いが
いなければ壊れてしまいそうな脆さがその二人にはあった。
 軽薄さも、喧嘩も、上辺だけ。
 何故なら、離れては生きられないことを知っているから―。


「その弱さは、知ってるわ。」
 愛する人に委託された世界。
「その幸せを、知っているわ。」
 二人でいて孤独を感じるほどの世界、それは多分、針の上に存在する楽園で地獄だ。

 そこに果ては無い。二人ならば―きっと、どこまでも、世界は無限で、世界の果てがあるとすれば、そこに立っているのはやはりその相手なのだろう。


 少なくとも、彼女―フォーチューンが見た世界の果ては、そうだった。
 この二人がどんな果てを見つけるのか―それを見るのが怖いような気がして、思わず手が止まる。
「あれ、読むのやめちゃうの?」
 アンティエルドが不思議そうに首を傾げるのに、
「…また、今度読もうと思うの。心構えができたらね。」
 曖昧に微笑んで、栞を挟んだ。
「読書に心構えなんて必要なのかなぁ…」
 不服そうに呟きながら彼は栞の挟んだページを苦労しつつ開き、とっぷりとそのページを眺めて…やはりまだ判らないのか、
うーっと呻り声をあげる。
「もっと大人になったら、読み返してごらんなさい。」
 そう言って、彼女は次の本に手を伸ばした。