今になって、思うの。

       もし、私達が出会っていなかったら・・・・・・・

       そうしたら

       誰も、死なずに済んだのかな?

       私達、間違ってたの?

       でも。こうでもしなきゃ。

       私達、ずっと独りだったよね。

                                                      01 邂逅

    第一章   出撃命令

    「はぁ?何抜かしてるんだ糞親父。」
      薄暗い、部屋と呼ぶには広過ぎる空間の中、二人の男が向かい合って話・・・否、言い合いをしている。
     男二人と言っても片方は老人だし、もう片方は、青年と呼ぶには少し無理があるが、少年と呼ばれるのを嫌がりそうな
     年頃――中学を卒業するかしないか、その位に見える――の、銀髪の人物だった。紅い瞳と、片頬に刻まれた紫色
     の痣が印象的な、肉食獣を思わせるなかなかの美形だ。
      蓮っ葉な口調とヤンキー崩れの外見にぴったりな粗暴な口調でそう言うと、苛々と髪を掻き回して言葉を続ける。
     「俺はロックマンを倒す為に、改造しろって言っただけだろ!?何でくっだらねぇ船を捜せって話になるんだよ!」
     「だって、あの中に色々入ってるんだもん・・・・強化用のパーツ」
      いじけた様に言う初老の男の言葉に、くだらねぇとぶつくさ言いながら部屋を出ようとしていた男の肩が、ぴくり、と揺れ
     た。
     「フォルテが取りに行かなくては、他のワイリーナンバーズが取りに行ける訳無いだろう・・・・」
     「・・・・場所は何処だ!?さっさと教えろ!!ワイリー!!」
      先刻までのやる気の無さは何処へやら。フォルテは、ワイリーの肩を掴んでがくがく前後に揺さぶる。
     「あわわわわわ、落ち着け!落ち着けフォルテ!!」
     「どうでもいいからさっさとしろ!!」
      ゴスペルが服の裾を引っ張って注意を促す頃には、とっくの昔にワイリーは失神していた。
      ワイリーが目を覚ますまでじりじりしながら待ち、そうして沈没した船の場所を聞いて部屋を飛び出すフォルテ。
      彼の頭には、早く改造を受けてロックマンをぶっ潰す。その一言しか無かった。
      久し振りに闘える・・・そんな楽しみと期待に、口元を歪めながら。
      それを見送りながらワイリーが、腹黒そうな笑みを浮かべていたなど、フォルテには知る由も無かった・・・もし知ったとし
     ても、別に気にも留めなかっただろうが。

 

      それと同じ頃、ライト博士の家では、ロックが不審な沈没船を調べに行く様に言われていた。
     「それじゃあ、もしかしたらワイリーの船だって可能性もあるんですか?」
      ライト博士によると、沈没船を調査に行った人々は皆成功せずに命からがら帰って来て、一同にこう言ったという。
     『あそこには、大きなミミズの怪物が居ます・・・・・・・』
      と。確かに、潮の流れが悪く、人がちょくちょく出入り出来る場所では無いが、それにしても巨大ミミズとは考えにくい。また
     何か、ワイリーが企んでいると考える方が適当だろう。
     「そうじゃ・・・・最近平和だと思っていたが、またかのぅ・・・・」
     「でも、本当にミミズだったら、ザ・グリードみたいね。」
      二人の会話に、軽やかな、笑いを含んだ声が割り込む。いつのまに部屋に入って来たのか、ロールがコップを載せたトレイ
     を手に立っていた。
     「ザ・グリード?何の事かね?」
     「映画の事です。・・・この間、TVでやってましたよ。結局巨大ミミズでは無かったんですが。」
      ぼそぼそと言葉を交わす二人を見やり、桜色の唇を微笑ませてトレイを机の上に置く。そんな何気無い動作にも、音を立て
     無いように気を使う辺りは流石と言うべきか。
     「でも、ロック、それじゃぁ・・・今日のお出掛けは、中止?」
     「あ、そっか・・・ごめんねロールちゃん。でも、ワイリーの野望なら、一刻も早く止めないと。」
     「そう・・・」
      一瞬だけ瞳を伏せたものの、次の瞬間には悪戯っぽい笑みを浮かべて、ロールは言う。
      唯、その悲しみに気付いた人は居たのだろうか。表情の切り替えは余りにも見事過ぎて、彼女が浮かべた笑みは、余
     りにも彼女に似合い過ぎて。そうあれば良いと思う形にぴったりと収まる表情(カオ)に、違和感を感じる事は無いのだろう
     か。
     「それなら、今度は一日中引っ張り回しちゃうから!覚えておいてね!」
     「ロック、それなら途中まで一緒に行ったらどうかね?帰りはライトットが送ってくれるから安全だろうし、一緒に出かける予定
     だったんじゃろう?」
     「そうですね。ロールちゃん、じゃあこの埋め合わせは戻って来てからするから、見送りに来てくれない?」
      肯くロールの手を引いて、行ってきます!とロックは家を出る。
      このシーズン、海って迷子になりそうであんまり良くないよなぁ・・・などと思いながら。

 

      ライトットが運転してくれるトラックの乗り心地は快適とは言い難かったが、海が近づくに連れて見えて来る海面の煌きは、
     昔に比べて随分美しさを取り戻している。光を反射して眩しい海面と、砂浜に居る子供、若いペア。
      海岸から吹く風にリボンが飛ばされそうになって、ロールは慌ててリボンを押さえた。風が強い。
     「ねぇロック・・・この風、変な方向から吹いてない?」
      そう呟いた瞬間に、地面を走る鳥の影。
      一瞬でそれは眼前から消えたものの、その「鳥の影」は異様な形をしていた。
      鳥・・・?なんで鳥に脚があるのかしら。ふとそう思ったが、鳥の訳が無い・・・鳥に脚がある訳がない。
      あまりの事に常識的な判断をするのに時間がかかった。ロールがほけっとしている間に、それの正体に気付いたロック
     が低く叫ぶ・・・。
     「フォルテ!」
      先程の影は、どうやら鳥などではなくゴスペルブーストを使っているフォルテだったようだ。
      ロールは見たことが無かったが、ロックはゴスペルブーストを何回も見た事がある。判断を下すのはロックの方が早か
     った。車から飛び降りて走り出す彼に、待ってとも言えず慌てて飛び降りようとしたら、リボンが引っ掛かって解けてしまった。
     結び直している時間は無いと、ロールは既に遠くなったロックの姿を追う。
      人ごみの中を通り過ぎる時、何回も声を掛けられたり手を掴まれたりしたが、今はそれどころでは無い。放してもらおうと
     相手の方を向いた瞬間、顎が持ち上げられていた。
     「彼氏は?それとも君一人?」
      どうしよう・・・とロールは視線を彷徨わせた。ロックは人ごみに紛れたのか、もう彼女の視界にはいない。
      それに、フォルテとを探しているのだろうから、ここに来る確率は限りなくゼロに等しい。
     (どうしよう・・・・)
     「離せってんだよ。ロリコン。」
      その瞬間、背後から声が掛けられた。声の主は判らないが、確か何処かで聞いた事のあるような声だ。そんなに低くは
     ないが、どこか掠れた様ななハスキーな声。
      今まで自分の眼前に居た男がちえっとぶつぶつ呟きながら人ごみの中に立ち去ると、改めてお礼を言おうと、ロール
     はそっちの方を向き・・・・・・硬直した。
     「あ・・・・」
      予想もしなかった人物に助けられ、鳩が豆鉄砲を喰らったらこんな顔になるのだろうかというぽかんとした顔で、その人物
     を見つめる。
      零れそうなくらい見開かれた蒼い瞳に相手の姿を映しながら、彼女は完璧なパニック状態に陥っていた。

  

      ロールが助けられた少し前、ロックは人ごみから少し外れた岩場の上でフォルテが着地するのを見た。
      灼熱の太陽の下ではあまりにもそぐわない、漆黒の闇を切り取った様な堕天使を思わせる翼が一回怠そうに羽ばたく
     と、その翼は瞬時に消滅し、狼型のロボットが姿を顕す。フォルテは海の方を向いていてロックには気付いていない様だ
     が、残念ながらゴスペルの主人同様紅く吊りあがった瞳が、彼の姿を捉えていた。
     「GRRRRR!!!!!」
      気付かれてしまったなら、攻撃を仕掛けて来るだろうからみんなを避難させなきゃいけない・・・フォルテが、ロックの姿を視界

    に捉える。その顔が、彼本来の性格である好戦的な表情に変わり、ロックは被害を出さない為にフォルテの方に歩み寄ろう
     とした・・・のだが。人ごみがそれを許さなかった。
      ロックの姿はあっという間に人の波に消える。準備万端だったフォルテは、一瞬途方も無く情けない気分になった。
      人を殺すのには別に躊躇いは無いが、これだけの人数を殺すには時間がかかる。折角ロックが自分の方から戦いに
     来たのに。邪魔な人間が居ない処で思う存分闘えると思ったのに、人がそれを邪魔したのだ。
     「ぶち殺す!!!!」と叫んでバスターを乱射したい衝動に駆られたが、それは只単にゴミを増やして、血やら何やらで
     滑り易く安定しない足場を造るだけだと自分を抑える。
      広い場所で全力で戦うなら、まずロックマンを人ごみから探すべきだ。
      そんな処だけ妙に律儀なフォルテは、宿敵を探そうと、うんざりするほど多い人の群れに踏み込んだのであった。

                                                             

 

      第二章 意外な待ち人

    「どっ・・・・・」
      何を言おうか、ロールは唇を開いて、悩んでまた閉じる。ここでこの相手の名前を叫ぶ訳にはいかなかった。
      言葉よりも雄弁に疑惑を伝えてくる蒼い瞳に見つめられ、その男は僅かに口元を歪めた・・・様にも見える。
      ただ、その視線は笑うと言うには余りにも鋭いものがあり、蛇に睨まれた蛙の如く相手をその場に縛り付ける程の強さ
     を有している。目を離したら、その瞬間に喉笛を食い千切られそうな、肉食猛獣との対峙。
      呆けた様にその場に立ち尽くす彼女の腕を引いて、男は乱雑に砂を蹴散らしながら歩き出した。この真夏の太陽の下で
     黒っぽい服装と言えば、非常に目立って仕方が無いのだが、ビーチの人々は自分達の事に夢中で、どうやら全く彼らに注意
     を払う者は居なかった。もし、注意してみれば非常におかしな二人組みに見えたに違いない。
      少女を連行する青年、という見る人が見なくても十分怪しい光景のまま、ロールは半ば引きずられながら、それでも小さな声
     で男に尋ねる。
    「どうして貴方がここに居るの・・・・フォルテ。」

    「どうしてもこうしたも、ロックマン探してるんだよ。」
    「あら。」
     じゃあまだ会ってないのかしら?とロールは僅かに首を傾げる。
     フォルテは性格の悪そうな笑みを浮かべ、足を止めて向き直った。ロールに会えたのは、はっきり言って幸運だった。もしロッ    
クが出て来るつもりがないにしても、彼女を人質に取れば嫌がおうにも出て来るだろう。
そう読んで、先程彼女を助けたのだ。
    「ってな訳で・・・人質な。ゴスペル!!」
    「ちょ!何すんのよ・・・・きゃあぁっ!!」
     フォルテの呼び声にどこからともなくゴスペルが現れ、立ち所のうちに翼へと変形を遂げる。事態に反応したロールが背を
    向けるより早くに、華奢な身体は軽々と抱き上げられていた。
    「離してよ!!離してったら!!」
     ここで下手にフォルテを怒らせてはいけないと判っていても、大人しく人質になる訳にもいかないので、とりあえず相手を
    殴ったりしない程度に足をばたばたさせてみる。上手くいけばバランスを崩して落ちる事が出来るかと、そんな低い確率に賭けて
    暴れてみたのだが、生憎とそれも淡い希望に終わったらしい。それを見てとったフォルテは、いかにも可笑しそうに笑った。
     戦闘用ロボットと家庭用ロボットは、見た目はともかく内部の構造がかなり違う。
そしてそれはもちろん、力の差にも現れて
    いた。フォルテの場合、どちらかと言えば軽量型の戦闘用ロボットだが、いくら軽量と言っても、殴り合いなどの接近戦に備えて
    人間の筋力に当たる部分もかなり強化されている。外見的にはそう見えないものの、その部分だけでもかなりの重量になる筈
    だ。家庭用ロボットのロールは、闘う必要性が無い為、うっかり物を壊したりしない為に力の出力も体重も軽量化されている。
    比べてどちらが強いか・・・それは一目瞭然だった。
     知らないのか知っていても足掻くのか。多分後者だろうと見当を付けて、いっそ芝居じみた抵抗をする相手に、本気では無いが
    脅しをかけてみる。
   「あんまりじたばたしてっと落とすぞ。」
     そう言った瞬間、見事なまでにぴたりと動きが止まる。ロールは大真面目にびっくりしたのだろうが、フォルテは元々そんなつも
    りは全く無かったので、滑稽とも言えるその動作にますます笑う。
     人の馬鹿らしい動作を見るという事は、往々にして優越感を満足させる事が多い。まだ笑いは収まらなかったものの、
    とりあえずロックマンを探そうと、フォルテは地面を蹴った。
    「・・・・・・!!!」
     その瞬間、がくんとロールの首が仰け反る。飛び上がった時の空気抵抗はGを越した過剰負荷で、慣れているフォルテには
    全く何でも無かったが、衝撃で回路が停止してしまうのを、掠れる意識の中で彼女は最後に感じた。
     ここで倒れちゃ・・・・駄目なのに・・・・
     その一言を境に、ホワイトアウト。途端に力が抜けてぐったりとなる。急にずれた重心に異変に気づいた彼は、単なる人形と
    化したロールの姿を見て、小さく舌打ちして呟いた。
    「しまった。忘れてた・・・・」
     もう一度しっかりと抱え直そうとした時視界に入った彼女の表情に、フォルテは思わず呼吸を止める。

     何回かは会った事のある人物なのに、どうして初めて見た様な錯覚を覚えるのだろうか。

     人形を思わせる、あどけなく愛くるしい顔立ちも、何も違わないのに。全く見たことの無い、どこか幽艶な女の顔に見えたのは
    何故なのか。ふとそんな疑問が胸を掠めたが、まぁ多分まともに顔を見た事が無かったのだろうと結論付けて、フォルテはそ
    の疑問を傍らに追いやった。彼の最優先事項は、いつも争いだったから。
    「ロックマン!居るんだろ!さっさと出て来て勝負しろ!!」
     ロックに向けて叫んだ言葉は、忽ち辺りにパニックを巻き起こした。
     脱獄したもののワイリーの名前が出る事はここ数十ヶ月全く無く、だから人々は先程フォルテが人ごみの中に居て
    も、全く気にも止めなかったのだ。安穏があれば、油断も起きる。銀髪で長身の青年など、沢山居るものでも無いが、全く
    居ない訳でもない・・・しかし、銀髪で長身で頬に紫の痣があって、しかも黒い翼で空を飛ぶ青年となれば、話は全く別だ。
     それに該当する者など、一人しか居ないし、まさかそんなコスプレをする命知らずも、居ない。
     だとすれば、それは本人でしかないではないか。
     穏やかだった海岸は一瞬のうちにあわてふためき、ひしめき合う人の群れで一杯になる。
     そんな中、凛としたボーイ・ソプラノが、混沌を縫って響いた。
     それを聞き咎めたフォルテの口角が吊り上がり、鋭い犬歯が覗く。その瞳の中には、歓喜の色が浮かんでいた。

 

     「僕はここだっ!関係ない人達を巻き添えにするのは止めろ!!」
      叫んだロックの姿は、丁度フォルテの背後にあたる防波堤の上だった。
      フォルテがゆっくりと振り返ったその瞬間、ロックの瞳が大きく見開かれた。
      巻き込まれて、空中まで連れて行かれたのは『関係のない人』のうちの一人・・・
      それは紛れもなく、ライトットと一緒に居ると思い込んでいたロールの姿だったのだ。
      呆然としたロックの表情を見て、フォルテは呟く。
     「ほら、お前達の表情、そっくりだろ?」
      それは先刻、自分を見つけて驚いた少女の表情の事を言った様だが、彼女が答える訳も無く。
      その言葉は、誰にも聞かれる事無く風に溶けていった。
     「・・・・・・さぁいくぜ!!」
                                                        
   

 

     第三章 灰色のビーチ

     「ロールちゃん!!」
      フォルテの声に重なる様にして、ロックの悲鳴にも似た声が空気を裂く。
      必死、とも言える表情のロックを見やり、フォルテはにやりと笑って抱えたロールの身体を宙に投げ出した。ロックを誘き
     出す彼女の役目は終わっていたので、それ以上不要な物を抱えて闘うほど、彼は酔狂では無かったのだ。
      無造作に投げ出された瞬間、既にロックは落下地点に走り込んでいた。思わず目を瞑っていたが、鈍い衝撃と手応え
     に、無事に捉える事が出来たのかとほっとロックは目を開ける。確かに、ロールを受け止める事は出来た様だ。
     (良かった・・・)
      息をついたのも束の間、頬を掠めた弾丸にいまの状況を思い出す。
      視線を上げると、金色の流れの向こうに、こちらに手を向けて立つ堕天使の姿があった。
      先程まで明るかったビーチも、まるで彼の出現に合わせるかの様に薄暗く曇っている。光の差さない鈍い色の空間の中
     闇を切り取った様な漆黒の羽根と、それから紅の瞳だけがやたらと鮮やかな色素に見えた。
      

     「く・・・・!!」
      連続して繰り出される光弾を避けながら、ロックは小さく呻いた。
      以前より格段に破壊力が上がっている。一発が致命傷になりかねない強力な攻撃の連続に、反撃など許される訳も無く、
      只避けるだけで精一杯だ。避け続ける事は不可能では無いが、フォルテの方は己か相手が致命傷を負うまで戦闘を止める
     様な性格では無い。その事をロックは痛い程知っていた。
      死ぬまで戦い続ける狂戦士。
      そんなフレーズを、彼を見る度いつも思う。
     「さぁさぁさぁ、どうしたんだ!!」
      反撃出来ないと分かっていて、そしてわざと当たらないすれすれの所を狙う性格の悪さは誰譲りだろうか。緊急事態だと言う
     のに、そんなくだらない事を考えてしまう自分に呆れながら、ロックは左腕を掲げる。
      やっとやる気になったのかと、フォルテは唇の端を歪めて笑いながら、光弾の雨を打ち出す手を休めた。
      キィィィィン・・・・どこか耳障りな機械音を立てながら、ロックの掌から腕へ、全身へと光の筋が走り、そして次の一瞬、
     それが放たれた。
      チャージショット。高密度のエネルギー弾を打ち出すのに時間はかかるものの、その破壊力は時間の見返りとしては
     十分過ぎる位のものだ。そしてその破壊力は、フォルテにとっても出来るだけ当たりたく無い程の威力を秘めている。
      勿論、フォルテには当たってやるつもりなどさらさら無かったのは言うまでも無い。ショットが放たれた瞬間に、翼を消して
     地面に着地していた。
     「それで威嚇のつもりかっ!???」
      嘲笑うような、失望するような声音だった。ロックは僅かに眉を顰め、安全な場所を目線だけで探す。
ロールを抱えながら
     の戦闘は、不利なだけで無く明らかに危険で、自分はともかく彼女は何処か攻撃の被害に遭わない所に連れて行かな
     ければならないと考えていた。
     (どこか・・・・どこか安全な場所は・・・・)
      その瞬間、フォルテの攻撃が放たれる。避けているうちに、だんだんと海の方へ追い詰められている事に気付いた。
      只海の中に追い詰められるのならまだ良い。波に足を取られるかもしれないが、まだ海岸沿いに逃げる事が出来る。
      しかし、今ロックが追い詰められているのは、岬の、白い壁の上だった。もう後が無いと、今更のように気付く。
      反対側からは、じりじりとフォルテが迫って来るその背中から、翼が消えているのにロックは気付いた。
      その瞬間、目の前を横切る黒い疾風。
      辛うじて避けたものの、そのままバランスを崩し、そして、ロックはロールを抱えたまま、灰色の海へと落ち込んだ。
     「・・・・・・・しまった!!追うぞ!!」
      逃した事に気付いて、瞬時遅れてフォルテも飛び込む。
      派手な水飛沫の後、灰色のビーチに残ったのは。
      どこか寒々しい、沈黙だけだった。  
                                           01 邂逅 終わり 02に続く