しらゆりのおひめさまのおはなし

 

「むかし―むかし。」
 物語はそんな、ありがちな出だしで始まっていた。
「あるところに、小さな教会がありました。年老いたシスターが一人、そこで静かに日々の勤めを送っていました。
 ところがある日、教会に植えられている百合の花の所に、百合の花弁に包まれるようにしておかれていた赤ちゃんを、彼女は見つけたのです。」
 挿絵は眩いくらいに、百合の白と、それから赤ん坊の鮮やかな蒼の瞳を描き出していた。水彩画なのでそれほどリアリティは無いが、そのぶん、輝くような色使いが見るものに
「白百合から生まれた娘」の、浮世のものとは思えないほどの清純さを伝えてくる。
「シスターは大変驚きましたが、すぐに、この子は神様から遣わされた白百合の化身だと直感しました。そして、リリィ、と名づけたのです。」
 リリィ―。百合の名を与えられた彼女が、どこからやってきたのか、何故教会に置かれていたのかについては、書かれてはいない。だがシスターは、そんなことなどは関係無しに、
リリィを大事にしたようだ―。祈りをもって愛されはぐくまれたリリィは、動物や植物を愛し、心を通わせる優しい少女に育っていった。挿絵にも白百合の花弁のような、透明感のある
白い肌―。日光と同じ色で描かれた髪の娘の周りを、明るい色合いの小鳥が飛び交うさまが描かれている。
「リリィはシスターの愛情を受けて、すくすくと美しく育っていきました。しかし、リリィが大きくなるにつれて、また別の問題が起きてしまいました。
 それまで、静かな場所だった神の家が、リリィを一目みようと押しかけてきた男達の乱雑な靴音で埋まり―。礼拝の時間も、穏やかな、心休まるものではなくなってしまいました。
 もともと内気だったリリィはとても怖がって―あまり、表に出ないようになりました。…そうして、また暫くは、静かな日々が戻ったように思われました。
 しかし、そんな日々は、突然終わりを告げてしまうのです。ある夜―全てを燃やし尽くすような、火事が起こりました。」
 言葉を切って傍らを見ると、アンティエルドは静かにスリープモードに入っていた。小さく笑って、彼女は読むのをやめ、タイトルが消えかかってしまっている本の厚みを確認した。
「火事からリリィを救ったのは、真っ黒な、高貴ないでたちの男性でした…ね。」
 見る限りでは、本はまだまだ先が長い。この分量からすると、多分ただのお姫様のお話では終わりそうにないだろう。少なくとも、燃え盛る祈りの家から彼女を救った王子との、
甘く優しい恋物語のみではないことは確かだ。
 実際、挿絵の中には―白と黒の残虐さに塗りつぶされたページがあった。真っ赤な海が何かを生み出しているページもあった。
 寝物語として選択を間違えたかしら、とも一瞬思ったが―その先には愛があるのだと、何故か思えたので―。それ以上追求するのをやめて、彼女は本を閉じ、「―おやすみなさい」と誰ともなく呟いた。

 それはアンティエルドに対してだったか。
 それとも、白百合姫に対してだったか―それは、定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 読書フォーチューン。
 ほら、インターネットだから、「読書」といってもデータを読んでるんですよ。
 画像解像度というものがよくわからなくて…うまく縮小できないんでこんな大きくなりました。
 …なんだか何も手を加えない方がいいようなきがしないわけでもないんだけど…えへへ、色塗りしたかったんだ!!