「逃げよう。」

 青年は手を伸ばして言い放った。少女は泣きそうな笑みを浮かべて首を振り、呟く。
「何処に逃げるの?」
 吹雪く雪の中、魂まで凍らせそうな言葉だった。
「私達を閉じ込めているのは私達のプログラムなのに、何処へ逃げるの?」
「判らない。でも、お前さえいなければ俺はあいつにも近づかずに済む。」
 つぅっと少女の頬を涙が伝う。冷たい気温と、それ以上に冷たい言葉は容赦無く熱を奪い、互いは凍えていく。
「いいえ。あの人から離れたら私達はきっと私達じゃなくなる。」
「……!」
「フォルテだって判ってる。私達は彼の為に造られた。彼は私達の総て。…彼が無い私達に何が残るというの?」
「違っ…」
「解らないふりをしないで。お願い。彼の隣で笑うことが、私の私たる存在意義。彼を倒そうと挑み続ける事が、あなたの証明。」
「それがプログラム、だと…」
 思わず手が震える。冷静な部分が叫ぶ。やめろ。相手は非武装タイプだ。一撃でも致命傷になる。

 お前は。


「ふざけるな!」

 
 殺す気か。